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DIARY :: AROUND THE CORNER :: 20110908001
今月号のアサヒカメラ(2011年9月号)の『リコーGXR用 マウントA12登場』という記事の冒頭に掲載された写真を見て、(*1)
「青天の霹靂」というと大げさですが、「本当に!?」という感じで大変驚きました。
私が思わず自分の目を疑り、その意味するところを実感するまで何度も確認したのは、
この製品に、レンズとして、 M 型 Leica 用の「Super Angulon 21mm F4」が装着されていたためです。
「Super Angulon 21mm F4」は、
1958年から1963年にかけて、Leica M3 や M2 が現役モデルであった時期に製造販売されていたレンズで、
Marilyn Monroe や Albert Einstein の写真でも有名なフォトグラファー Alfred Eisenstaedt が撮影した、
エッフェル塔を下から仰ぎ見る「Eiffel Tower」(1963年)という作品に用いられたレンズとして知られています。
超広角(35mmにおいて)でありながら歪みが少ないと言われ、広角レンズが好きな方には現在でも気になる存在であるようです。
しかし、「後玉が飛び出ている」、つまり、レンズのマウント面より後ろにレンズエレメントが大きくせり出している形状であるために、
それを使用するためには、カメラ内部にそのレンズエレメントを収めるだけの一定の空間を必要とする、少々特殊なレンズです。
銀塩用の Leica カメラでも、M5 や CL では内蔵露出計用の腕木とレンズエレメントが干渉するために使用できない、
M6 ではレンズエレメントが光路を妨害するために内蔵露出計による計測が不正確となってしまう等、
使用できるカメラや使用状況が限定されてしまいます。
Leica 社の最新のデジタルカメラである M9 においても、M6 と同様の制約があるようです(デジカメWatch記事参照)。
また、O 社、P 社、S 社などによるデジタル・ミラーレス機においては、このレンズは装着不可のようです。
更に、Leica 社に先駆けての、世界初の M マウント用レンジファインダー・デジタルカメラとなった Epson R-D1 では、
このレンズの最後端の金属カバー部分を切削加工することで装着・使用していた、非常に熱心なユーザーもいたようです。(*8)
つまり、「Super Angulon 21mm F4」というレンズの使用には、
アナログにおいてもデジタルにおいても使用機材や使用状況に相応の制約が存在している、ということになります。(*15)
そして、そのような現状に対して、アサヒカメラの記事中の写真は、私を含む読者に対して、
『「GXR MOUNT A12」は、通常の M マウント用レンズだけでなく、「Super Angulon 21mm F4」もしっかり使えますよ』(*2)
というメッセージを投げかけている、というわけです。
「GXR MOUNT A12」は、8月初旬に一般に発売告知されましたが、
その時点では、この点についての特段のインフォメーションは無かったように思います。(*6)
であれば、撮像素子の大きさという点だけに限れば、直接的には 「S 社と競合する製品」という位置付けになります。
しかし、「Super Angulon 21mm F4」が装着・使用可能ということになると、
この製品の位置付け・ポジショニング、正確には、位置付け・ポジショニングの程度(度合い)が全く違ってきます。
そこで RICOH のサイトを見ると、「GXR MOUNT A12」のページ や新しい カタログ においても、
さりげなく、しかし、誇らしく、一番最初の作例として、このレンズによる写真が掲載されていました。
その作例と、作例の下に小さく印字された撮影データの中の「LEITZ SUPER-ANGULON 21mm F4」というレンズ銘からは、
RICOH の企画者・開発者の方々の、「どうだ、やったぜ!!!」という自信満々の雄叫びが聞こえてくるようです。
ここに、私は、この製品の開発に取り組んだ RICOH の心意気・本気度を見た思いがします。
さらに、ちょっと調べてみると、何と、CONTAX Gシリーズ用の「Hologon 16mm F8」の 装着・使用実例 もありました。
これは、M マウント用に改造されたもので、ユーザーの自己責任において使用したものとのことですが、
レンズエレメントが更に極端に大きく後ろにせり出ているこのレンズでさえも装着・使用可能ということになると、
M 型 Leica カメラで使用可能なレンズであれば、
ほとんど全てが、この「GXR MOUNT A12」で装着・使用可能ということになるものと思われます。
実際に先程の RICOH のサイトの 「GXR MOUNT A12」のページ の下方にある装着可能レンズの一覧表を見ると、
上記 Hologon のオリジナルである「Hologon 15mm F8」と「Elmar 5cm F3.5(L)」以外は、使用可となっています。(*3)(*11)
「Elmarit 28mm F2.8」もOKということなので(また、「Super Angulon 21mm F4」がOKということを考慮すれば)、
後玉の飛び出た、このレンズの「1st」バージョンもOKということでしょう。(*13)
また、Leica の M9 においても一部使用制限があるとされる(デジカメWatch記事参照)
「Summilux 35mm F1.4(1st)」「DR Summicron 50mm F2.0」もOKとなっており、
一覧表でこれらのレンズ欄に丸印を付けることで、さりげなく、しかし、しっかりと、その点をアピールしているようです。
もちろん、M 型 Leica 用レンズには、純正・非純正で、この一覧表に収まりきるはずも無い有象無象のレンズが存在しているわけで、
あえて言えば、非純正ですが、「Super Angulon 21mm F4」の当時のライバルと位置付けられる、
旧 Contax (レンジファインダー)用の「Biogon 21mm F4.5」や「Biogon 35mm F2.8」は装着・使用可能なのか、
という点を気にするユーザーの方がおられるかもしれませんが(マウントアダプター経由で)、(*10)(*18)
コアなユーザーが最初に気にするであろう主な Leica 純正レンズは、「Noctilux 50mm」を除いては、
上記でカバーされていると言っていいでしょう。(*4)
このように見てみると、RICOH は、「GXR MOUNT A12」の開発に際して、
「M 型 Leica で使用可能なほぼ全てのレンズを使用可能にする」という、非常に高い目標を掲げていたことが窺えます。
結果的には、非常に特異な存在である「Hologon 15mm F8」を使用可能と明言することは(残念ながら)できなかったわけですが、
その目標を、
『「Hologon 15mm F8」とほぼ同様のレンズである「Hologon 16mm F8」をユーザー責任においてなら使用できる可能性がある』
という程度、つまり、ほとんど限りなく100%に近い水準で達成したことになります。
しかも、先程の Hologon の作例では周辺光量落ちがほとんどありません。
Hologon 独特の周辺光量落ちはこのレンズの持ち味とされていますが、
周辺光量落ちの少ない写真もそれはそれで魅力的であるように感じられますし、このレンズの活躍の場を更に広げるように思われます。
「GXR MOUNT A12」の周辺光量については、田中希美男さんのブログエントリー に初代 R-D1 との 比較 が載っており、
そこでもその高性能ぶりを確認することができます。
つまり、「M 型 Leica で使用可能なほぼ全てのレンズを使用可能にする」という目標において、「使用可能にする」の意味は、
単に「使えるようにする(=装着可能にする)」ではなく、「高品質の撮影結果を伴って使えるようにする」、という意味になります。
もちろん、これらの一部の特別なレンズが装着・使用可能であることに対して直接的に反応する人は限られており、
一見すると、RICOH は、そうした一部のコアな層(=少数=商売的にはうま味は少ない)を満足させるために、
多大なエネルギー(ヒト・モノ・カネ・チエ)を注ぎ込んだ、と捉えることもできなくはありません。
品質に関するその点を妥協すれば、開発費や製造費の相応の低減や、開発期間の短縮も可能ではあったものと思われます。
しかし、RICOH は、そのような選択をせずに、高い目標を維持する意思決定を行い、それを達成したということになります。
そして、そのような意思決定に基づき投入された様々な経営資源が、バックフォーカス関連においては、具体的には、
(1)オンチップ・マイクロレンズの最適化、(2)ローパスフィルターレス、(3)周辺光量補正機能
などの、「GXR MOUNT A12」の存在を独自のものとして際立たせる主たる製品特徴として結実したことになります。
さらに、田中希美男さんのブログエントリー によると、
このサイズの製品の中にフォーカルプレーンシャッターを組み込んだことが、画期的であるようです。
通常、カメラメーカーは、「コストダウン」「メンテナンスの容易性」等の理由から、
シャッターはユニット化されたもの(いわゆる「汎用品」)を使用するのに対して(Wikipedia参照)、
RICOH は、今回、この製品のために自社開発したということですから(ASCII.jp記事参照)、
そこには、「技術面」におけるブレイクスルーと共に、
RICOH の内部において、「マーケティング面」「生産管理面」におけるブレイクスルー的意思決定があったことが窺えます。
そして、高い目標のもとで実現されたこれらの製品特徴は、特殊なレンズだけでなく、通常の多くのレンズの使用においても、
言い換えると、コアな一部のユーザー層に限らず、通常の多くのユーザー層の使用においても好影響をもたらす、
すなわち、快適な写真撮影経験やクオリティの高い写真撮影結果を提供するという、この製品の基本価値となっているようです。(*7)
つまり、私がここで言いたいのは、RICOH は、一部の非常にコアなユーザー層に向けてこの製品を開発したのではなく、
しかし、そうしたユーザー層を「マニア」や「オタク」として切り捨てることなく、逆に、一般のユーザー層においても、
そうしたコアなユーザー層が有するプラスの側面としての高質な「こだわり」「審美眼」などを共有しつつあるという認識のもとで、
そのような「こだわり」などを満たすことにより、特定の、しかし、それなりの規模感をもったある一定のユーザー層に訴求するという、
社内的な共通認識・共通価値を企業文化として有していた、もしくは、
そのような認識・価値を開発過程を通じて全社的に創造していった、であろうということです。(*9)
もちろん、「M 型 Leica で使用可能なレンズであればほとんどOK」ということになれば、
RICOH の販売部門としては、先行するミラーレス製品に対する差別化要因にできることになります。
また、同じく販売部門においては、そういうコアな層に、「新製品普及プロセス(=ロジャースモデル)」における
「イノベーター」「オピニオンリーダー」としての役割を果たして欲しい、という期待は当然あるでしょう。
しかし、この点は、販売面における差別化要因や普及促進要因であると同時に、本質的には、製品戦略面における、
M マウントに特化した「GXR MOUNT A12」という製品の存在意義(=コンセプト)そのものと捉えるべきでしょう。
そして、そのコンセプトを完遂したことにより、「GXR MOUNT A12」という製品は、
「ほんもの」性という、現代マーケティングにおいて非常に重要な(と私は認識している)価値を獲得したと言えます。(*5)
高い目標設定と適切なユーザー理解に基づき、
その実装を完遂した企画者・開発者、それを推し進めた管理者・経営者、それを全社的に支援した RICOH という企業に、
私もマーケターを自認する者として、リスペクトの念を抱かざるを得ません。
そして、彼らが結実させた「GXR MOUNT A12」という製品に注目せざるを得ません。
日本企業から「夢」「野望」「熱意」「こだわり」「思い」「ワクワク感」のようなものを感じる製品が少なくなってきている中で、
この「GXR MOUNT A12」には、そのようなオーラのようなものが感じられてきます。
それは、個々のユーザーが感じる主観的なものであり、数値として容易に計測できるものではありませんが、
しかし、であるからこそ逆に、「GXR」の貴重な無形資産(=ブランド価値)であり、
他社・他製品に対する非価格的「競争」要因(=無形の参入障壁)となり、
ユーザーと共有・協働する非価格的「共創」要因(=企業とユーザーの疑似的な組織化・コミュニティ化・関係強化)として、
ユーザーにおける、システム製品としての「GXR」全体の将来性や発展可能性に対する期待感に繋がっていくものと考えられます。
実際、既に10名程のユーザーモニターの方がこの製品を使った写真をブログなどにアップし始めており、
使用感に関するレヴュー的文章も掲載されてきていますが、(*12)
彼らが「モニター」であることを割り引いても、そこにある種の「熱」が感じられてきます。
この製品が、「量的」に ブルーオーシャン(=自律的に存在・発展可能な非競争的独自市場)を獲得できるかどうかはわかりません。
しかし、上記のように、コンセプト面では、
(1)ユーザーに対して独自の価値を提示している
(2)他社に対して(同質的競争環境ではなく)異質的競争環境を構築している
(3)「ほんもの」性を獲得している
という点において、「質的」にはブルーオーシャンを構築し得ていると言ってよいでしょう。
「質的なブルーオーシャン」が「量的なブルーオーシャン」の必要条件・前提条件となるであろうことを考えると、
この製品には、十分にその潜在的可能性があるように思われます。
以上は、実際の製品を見もせず触りもせず、操作性やデザイン性などを含めた製品としての総合力も一切考慮せず、
ただ「GXR MOUNT A12」の実装されたコアコンセプトにのみ着目しての(及び、画質面についての、若干の個人的な評価を踏まえての)、
情報レベルでのマーケティング的所見となりますが、
一方、銀塩の頃からの OLYMPUS ユーザーの私としては、かなり久しぶりに物欲が刺激されたようで、
この製品にちょっと浮気してみたい気がしています。(*23)
*1:「GXR」は、ご存知のように、シャッター・ボタンなどの物理的ユーザーインターフェースを持つカメラ本体部分と、
レンズ、シャッター、撮像素子、画像解析エンジンなどを備えたレンズ部分を切り離し、
各々をユニット化することで最適化を目指す非常にユニークなデジタル・カメラ・システム製品です。
そして「GXR MOUNT A12」は、レンズの代わりに M マウントを備えることにより、
「GXR」システムにおいて Leica M 用レンズなどの使用を可能にする、さらにユニークなコンセプトの製品です。
*2:「GXR MOUNT A12」は APS-C サイズの撮像素子であることから、「使える」と言っても、
画角が 35 mm 換算で約1.5倍になるという「制約」があることになりますが、これは自明のこととしています。
*3:「Elmar 5cm F3.5(L)」が何故使用不可なのか、その確実な理由について私は思い付くことができませんが、
もしかすると、沈胴させた時に問題が生じるということなのかもしれません。
※2011年09月12日追記:やはり「沈胴が不可」ということのようです。詳しくは(*11)をご参照ください。
*4:装着可能レンズの一覧表には「Noctilux 50mm」についてのインフォメーションは(何故か)ありませんが、
yodobashi.com には、このレンズを装着・使用した作例 もあり、通常使用に問題は無いようです。
*5:M マウントであり、かつ、銀塩カメラ用に提供されたレンズという意味での、いわゆる「オールドレンズ」の使用という点においては、
画角面において、35mmフィルムと同等の「フルサイズ」の撮像素子を備えた本家 Leica 社の M9 などが、
第一義的な「ほんもの」性を有しているということは言うまでもありません。
※蛇足ですが、個人的には、「オールドレンズ」ではなく、「クラシック・ロック」などのように、
「時代を超えた」という意味で「クラシック・レンズ」という言葉を使いたいと思っています。
ただ、最新のデジタルカメラ用に設計・製造されたレンズには、また別の良さがあることは言うまでもありません。
そして、それらが、次の時代の新しい「クラシック」を作って行くことになるはずでし、そうあるべきだと考えています。
*6:RICOH のサイトの「GXR」ページにおいて、
「ニュース」の2011年8月5日付けの「新製品 GXR MOUNT A12 の情報を掲載」 というリンクをたどると、
「GXR MOUNT A12」の仕様についての情報と共に2つの作例が掲載されているページに行きますが、
この2つの作例のうちの1つが、やはり「Super Angulon 21mm F4」を用いた写真となっています。
RICOH は、言語的には「Super Angulon 21mm F4」などが使用可能であることを敢えて強調しなかったものと思われますが、
このページを通じて、ユーザーに対して、さりげなく、しかし、しっかりと、その旨のメッセージを発信していたわけです。
そして、10名のユーザーモニターの中には、
「Super Angulon 21mm F4」や「Super Angulon 21mm F3.4」などを使用している方もおられるところを見ると、
そのような方には、ここでの RICOH からの暗黙のメッセージがしっかりと届けられていたものと思われます。
※2011年09月09日追記
*7:この点に関しては、「GR BLOG」の 2011年8月9日のエントリー で、以下のように、開発事情として語られています。
同等の焦点距離と明るさの一眼レフレンズに比べると、よりコンパクトで洗練されたサイズを実現している一方で、
いざデジタル機で使おうとすると、前述のデジタル特有の難しさとも対峙する必要がでてくるのですね。
また、マウントユニットはレンズ交換可能なため、いずれかのレンズに最適化するわけにはいかず、
どのようなレンズにもできるだけ対応できるような懐を用意する必要があるのがむずかしいところ。
さらには、マウントアダプタを介して、多彩な一眼レンズまで装着可能なため、さらに対象がひろがってしまいました。
これに対して、A12シリーズでレンズとそれ以外のパーツを最適化して送り出した経験を元にして、
マウントユニットでさまざまな解決策を考えました。
つまりマウントユニットを他のA12レンズがそれぞれに最適化したのと同様、レンジファインダ用のレンズに最適化したんですね。
結果的に一眼レフのレンズにも十分対応でき、懐の深いユニットとして実現しました。
そしてその工夫は光学的な話だけではなく、
レンズ交換や、絞りや露出、画像設定、撮影後の整理などを含めた撮影全体のプロセスでの使い勝手を考えてくれています。
*8:このエントリーは、M マウント用デジタルカメラに関する話題でもあるために、
やはり、世界初の M マウント用レンジファインダー・デジタルカメラである Epson R-D1 についても触れておきたかったため、
この一文を追加しました(2011年09月10日)。
Epson R-D1 については、発売当初から、写真投稿可能な掲示板サイトを中心にユーザー・コミュニティが形成されていました。
そこに、Super Angulon 改造に関する情報・写真などが投稿され、一時期、その話題でかなり盛り上がったように記憶しています。
※2011年09月10日追記
*9:RICOH は、カメラ事業として長い歴史を有していますが、近年においては、
アナログでは、1996年「GR1(GRレンズ 28mm F2.8 付き)」、2000年「GR21(GRレンズ 21mm F3.5 付き)」、
デジタルでは、2005年「GR DIGITAL」、2007年「GR DIGITAL II」、2009年「GR DIGITAL III」など、(*14)
特に「GR」シリーズで非常に質の高いカメラを継続的に世に送り出し、ユーザーから高い評価を得ています。
「GXR」は、その製品銘からも、それが社内的・社外的に「GR」の系譜に属する製品であろうことが窺えますが、(*16)
上記のような RICOH の歴史を踏まえると、「GXR MOUNT A12」という製品は、
RICOH という企業の企業文化、もしくは、「GR」というブランドのミームが存分に発揮された製品であろうということです。
このエントリーの本文では、「GXR MOUNT A12」という製品がそのように結実したのは、
RICOH という企業の「既存の企業文化」か「新規の企業文化」かに由来する、と書きましたが、
このように見れば、RICOH ファン・GR ファンの方には言うまでもありませんが、前者であることは明らかです。(*17)
ご存知のように、RICOH は、カメラ事業としての「PENTAX」を買収することになっています(デジカメWatch記事参照)。
PENTAX に従事されておられる方には複雑な思いがおありかもしれませんが、
「快適な写真撮影体験」「高品質な写真撮影結果」などの目的においては、
第三者的には、RICOH というのは、非常に良い環境であるように思われます。
PENTAX も、カメラボディ、レンズ共に、高品質の製品を送り出してきた歴史が有るだけに、ユーザーとしては、
この両者の創発が、RICOH や GR のミームと PENTAX のミームの融合により、
「GR」「GXR」の更なる発展型としての「GPR」のような製品として結実することを期待したいと思います。
※2011年09月11日追記
*10:この点に関しては、クラシック・カメラやクラシック・レンズの魅力を伝えてこられた方々の中のお一人、田中長徳さんが、
「GXR MOUNT A12」の発売が正式に発表された翌日の2011年8月6日付けで、ご自身のブログエントリー において、
RICOH から提供されたテスト機にて「Biogon 21mm F4.5」の装着・使用が可能であることを、既に確認されておられました。
長徳さんが「GXR MOUNT A12」付属のチェッカーで最初に確認したのがこのレンズであるということが、
このレンズと Leica ボディや Leica ユーザーとの関係を物語っているようです。(*18)
長徳さんのこのエントリーでは、そのあたりの事情が詳しく記述されています(このレンズによる作例もあります)。
「Biogon 21mm F4.5」がOKであれば、「Biogon 35mm F2.8」(戦後のもの)も装着・使用可能であると思われます。
「Biogon 35mm F2.8」の戦前のものについては、長徳さんが実際に装着・使用 されています。
※2011年09月11日追記
*11:「Elmar 5cm F3.5(L)」については、
デジカメWatchの記事「【新製品レビュー】リコーGXR MOUNT A12(実写編)」で、装着・使用実例がありました。
しかし、留意点として、以下のような記述があります。
GXR MOUNT A12 装着時は沈胴しないように注意しよう。
その 2011年8月22日のブログエントリー によると(追記にて)、上記記事も踏まえた上で、以下のようにあります。
個体差や年代差があると考えられますので、
お持ちのレンズを装着する際は、事前のチェッカーでの確認を含め、十分に注意してください。
私の持っているレンズで沈胴できたのは、やはり個体差ということなのではないかと思います。
やはり「沈胴は不可」ということであり、それに留意すれば、装着・使用は可能ということになるようです。
ただ、実際に使用する場合には、(このユーザーモニターの方の Elmar のように)余計な気遣いなどせずに済むように、
鏡銅にワッシャー状のゴムを付けるなどして、鏡銅の沈胴幅がチェッカーの許容範囲内に収まるようにしておきたいものです。
※2011年09月12日追記
*12:ユーザーモニターの方の使用感に関するレヴューは、以下のページなどで読むことができます(順不同)。
トウキョウノソラ さん
2011年09月07日「GXR MOUNT A12(使ってみての印象・設定等)」
Whale Blue さん
2011年09月04日「RAW現像ソフトウエアを比較する」
2011年09月03日「スーパーアンギュロン「画像四隅の色合い変化」M9-P VS GXR MOUNT A12」
2011年09月02日「去勢されたスーパーアンギュロン」
2011年09月01日「ぼくの目になったGXR MOUNT A12」
GENZO_INDEX さん
2011年09月05日「GXR MOUNT A12 実写レポートその2(今回はちゃんと撮った)」(人物の作例多数)
2011年09月02日「GXR MOUNT A12 のモニターになったので早速レビュー!」
Happiness@Ameba さん
2011年09月11日「リハビリ。[GXR MOUNT A12]」
※2011年09月12日追記
*13:yodobashi.com 内の「RANGEFINDER」に、2011年9月12日付けで、
「Elmarit 28mm F2.8」の「1st」バージョン(非レトロフォーカスタイプ)の装着・使用実例 が追加されていました。
※2011年09月17日追記
*14:2011年9月15日に「GR DIGITAL IV」の発売が発表されました(デジカメWatch記事参照)。
※2011年09月17日追記
*15:RICOH のサイトにおいて、2011年11月9日に公開された
「リコー製品のここが知りたい 第50回 リコーカメラ2011年秋モデル GXR MOUNT A12編」というページでは、
企画者、画像処理関連の開発者、シャッター関連の開発者の3人の方が登場し色々語っておられますが、
企画者の方は、「GXR MOUNT A12」の開発方針について、次のように発言しています。
次に、さまざまなMマウント互換のオールドレンズの良さを最大限に引き出すことを目指しました。
(* Lマウント用GRレンズ
1997年発売のGR LENS 28mm F2.8、1999年発売のGR LENS 21mm F3.5) (*19)
優先順位としては2番目の課題の中の1つであった、ことになります。
ただ、この「ここが知りたい」シリーズの他の回なども読むと、 RICOH という企業が、カメラ・レンズの企画・開発において、
つまり、このエントリーで着目した「Super Angulon 21mm F4」などへの対応は、この製品の企画・開発においては、
より上位・より根本の戦略から考えると、
そして、そのような戦略方針のもとで、次のような具体的対応がなされたということになります。
たいていのレンズの味わいが引き出せるようになっています。
(前述の企画者の方の発言)
この発言中の「このレンズは個性が強い」「より厳しい条件を持つもの」の代表格が、
その下に掲載された作例写真からも、「Super Angulon 21mm F4」であった、ということでしょう。
本エントリーでは、「Super Angulon 21mm F4」から「GXR MOUNT A12」の開発思想へと真因訴求的に遡ってみましたが、
RICOH は、セオリー通り、その企業文化からしっかりブレイクダウンして、製品開発をしていたわけです。
実際には、「そこまでしていたら時間も足りない、コストも上昇する」というような議論もあったものとも思われますが、
時間やコストなどとのギリギリのせめぎ合いを乗り越え、複雑に絡み合った多数の開発要素因子で構成される方程式を読み解いて、
結果的には、RICOH の企業としてのカメラ・レンズ製品作りの大目標から導かれる開発方針を完遂したことで、
「GXR MOUNT A12」独自の特徴が実装され、多くのユーザーに恩恵をもたらす、その魅力が生まれたことになります。
というより、そのような大目標がなかったとしたら、果たして
「Super Angulon 21mm F4」などへの対応は実現できたのか、「ローパスフィルターレス」という選択や実装はなされたのか、
「オンチップ・マイクロレンズの最適化」「周辺光量補正機能」などの性能が現製品と同等のものとなったのか、ということです。
私は、一マーケターとして、
※2011年11月14日追記
*16:「GXR」という製品銘については、私は、本エントリーを書いた時点では、
(2)ユニット交換式というスタイルにより、ユニットが実現する様々な機能としての『未知数(=『X』)』の魅力を提供する
しかし、RICOH のサイトの「リコー製品のここが知りたい 第39回 ユニット交換式カメラ GXR [企画・デザイン編](3/3)」には、
次のような記述がありました(2010年01月20日公開)。
十徳ナイフ(アーミーナイフ)のような多機能なカメラ「GX」と
リコーがフィルムカメラの時代に発売していた一眼レフカメラ「XR」、
この2つの血統を受け継ぐカメラとして「GXR」と名付けられた。
(2)普及クラス対象の「Caplio RX」に対して、「Caplio GX」はプロユース対象
(3)「撮影領域」の更なる拡大(起動時間・フォーカス時間・リレーズタイムラグの短縮、バッテリーの長時間化、小型化など)
(4)オプション・システムの充実化による拡張性への対応(ワイド・コンバージョンレンズ、ストロボなど)
(5)「操作性(ハード的・ソフト的ユーザーインタフェース)」の向上
(6)低価格化(低コスト化)
こうしてみると、RICOH における「GXR」という製品の位置付けも、なんとなく見えてくるように思われます。
一方、「GR DIGITAL」については、同じく、「第12回 GR DIGITAL」等でも語られていますが、
改めて言うまでもなく、フィルム用カメラの「GR1」の系統に属しています。
とすると、「GXR」と「GR DIGITAL」は、RICOH の内部的には、一般ユーザーに対して、
(2)レンズ・画像処理として、「GR」銘に相応するクオリティを提供する(「GXR」においては、「A12」シリーズに限り)
そのように考えると、「GXR」の発表会(2009年11月10日)における開発総責任者湯浅一弘氏(*20)(*21)の
自社の人気製品「GR DIGITAL」の競合となることを覚悟した上で「GXR」を製品化するという選択は、
デジタルカメラにおける「レンズ交換式」カメラ市場に参入したいという、RICOH の意思の強さを物語っています。
(「GXR」は、正確には、「『ユニット交換式』カメラ」ということですが、
「ユニットの交換」により「レンズの交換」も可能という意味では「レンズ交換式」カメラということになりますし、
「GXR MOUNT A12」の製品化により、既存の意味でも「『レンズ交換式』カメラ」でもあることになりました。)
ただ、企業である以上、今後の製品の発展は、如何に顧客・市場を創造できるか(既存ユーザーの深堀り、新規ユーザーの獲得)
という点にかかっているのは言うまでもありません。
※2011年11月14日追記
*17:カメラ・レンズ製品に対する RICOH の考え方(=企業文化)は、上記(*15)(*16)でも言及したように、
一般向けに明文化されたものは、「Candid Photo / Feature Story / リコーについて」というページで読むことができます。
※2011年11月14日追記
*18:旧コンタックス(レンジファインダー)用の「Biogon 21mm F4.5」とライカカメラやライカユーザーとの関係は、
柳沢保正氏著による「全ての道はライカに通ず」(グリーンアロー出版社)という本でも更に詳しく知ることができます。
この本は2001年秋の出版ですが、初出はその前年の隔月刊のムック「カメラスタイル」(ワールドフォトプレス)と思われます。
時期的には、デジタルカメラへの関心が高まりつつあったとは言え、まだフィルムカメラが主流であった頃です。
内容は、「怪しく楽しいアダプターの世界」という副題が示しているように、
様々なレンズを様々なマウントアダプターにより(フィルム用の)M 型ライカボディに装着・使用することにまつわる事柄を、
マウントアダプター製品の写真やそれを使用しての作例写真と共に、情報的、読み物的に紹介するものです。
この本の中の2番目の読み物である「ビオゴンは一日にしてならず」という章では、
「『Biogon 21mm F4.5』というレンズを M 型ライカに装着し、尚且つ、距離計に連動させる」
ために、様々な制約や困難を乗り越えることに情熱を注ぎ創意工夫するライカユーザーたちの「そこまでするか」という様子や
その方法(概要)が語られています。
私の個人的な感想としては、この章が、著者柳沢氏が、この本において最も書きたかった事柄であったように感じます。
本エントリーの「Biogon 21mm F4.5」関連の記述は、この本のこの章から得ていた知識に基づいて記述しています。
そして、話を「GXR MOUNT A12」に戻すと、この製品は、
天才的レンズ設計者 Ludwig Jakob Bertele 氏 (1900–1985) の設計によるこの歴史的名レンズを
デジタルカメラで使用可能したという点において、「撮影領域を拡大する」ものとなっている、ということです。
また、その意味で、画角が約1.5倍になるという制限はあるものの、
「GXR」及び「GXR MOUNT A12」という製品は、「Biogon 21mm F4.5」をデジタルカメラで使用可能した初の製品としても、
カメラ・レンズ史の中に位置付けることができるものと思われます。
(もちろん、「GXR」は、「スライドイン・マウント」や撮像素子・画像処理システムを含めた「ユニット交換式」という
ユニークなシステムにより、カメラ・レンズ史において、既に独自の位置を確保していると言えます。)
(蛇足ですが、現在、もし「全ての道はライカに通ず」と同様の主旨の著作があるとすれば、
書名は「全ての道は Micro Four Thirds / NEX に通ず」となるのかもしれません。)
※2011年11月14日追記
*19:この記述の「*」印が付いた注部分は、2011年11月9日に公開された当初は別の表現となっていましたが、
先日(2011年11月25日)確認した時点で、引用した表現「L マウント用 GR レンズ」というように修正されていました。
よって、当エントリーの該当部分も、そのように修正しました(2011年11月30日)。
2011年11月20日時点では当初の記述のままであり(Google のキャッシュを参照)、
2011年11月24日に姉妹編「GR DIGITAL IV 編」が公開されていますので、その時に併せて修正が行われたものと思われます。
ということで、「GXR MOUNT A12」に話を戻すと、その開発においては、
「自社の L マウント用レンズ『GR LENS 28mm F2.8』『GR LENS 21mm F3.5』を対象にして最初の最適化が行われた」
ということのようです。
※2011年11月16日追記
※2011年11月30日「2011年11月16日付けの追記本文」を削除し、上記追記本文と差し替え
当初の別の表現に基づくと、上記の2本のレンズとは別のレンズも最初の最適化の対象であったと考えることもできたため、
その解釈について私なりに検討した結果を、2011年11月16日付けのこの追記にて記述していました。
そこでの結論は、「当初の記述は、単に、この文章を書いたライターの方の誤解に基づくものであり、
『GXR MOUNT A12』の最初の最適化の対象は『2本の L マウント用 GR レンズ』であると思われる」ということでしたが、
実際そうであったようです。
ということで、修正が行われたことにより、2011年11月16日付けでの追記の記述は情報的に過去のものとなるため、
2011年11月30日付けで、その記述を削除し、現在の記述に差し替えています。
*20:2011年11月15日に公開されたデジカメWatchの記事『インタビュー:リコーに聞く「GR DIGITAL IV」の進化(後編) 』に、
「GXR」の開発総責任者でもある湯浅一弘氏が、2011年9月末に、RICOH を退職された、との情報が掲載されていました。
次のリンクは、「GR DIGITAL」の開発に関しての湯浅氏へのインタービュー記事(2007年10月)ですが、
これを読むと、湯浅氏が、「撮影領域の拡大」「Candid Photo の支援」という RICOH のカメラ製品作りの考え方に、
非常に強いコミットメントを有しておられたことがわかります。
『「coin age+FLESH」の「FlashPoint」におけるインタビュー 1/3・2/3・3/3』
とすると、湯浅氏の肩書きは「パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデント」ということですが、
部門のトップである以上に、「GR DIGITAL」や「GXR」の開発に大きな役割を果たされた、ということなのかもしれません。(*21)
特に「スライドイン・マウント」「ユニット交換式」という、無二の特徴を持つ「GXR」については、
それが「撮影領域の拡大」「Candid Photo の支援」に繋がるという、すなわち、RICOH のカメラ製品作りの目的を実現するという、
湯浅氏の開発総責任者としての強い信念がなければ、
ユーザーに受け入れてもらえるのかどうかという未知の部分(=それが RICOH にとってのリスクになります)が大きいだけに、
果たしてその製品化は実現したのだろうか、とも思えてきます。
そして、その未知の部分(=リスク)をクリアするための様々な試みが、(*22)(*24)
「GXR」のカメラとしての完成度に繋がっている、と考えることができるように思われます。
もちろん、そのような人物を部門のトップに据えた RICOH の経営陣による人選や支援、
その方針のもとで開発などに邁進された部下の方々の知恵や努力が不可欠であったことは言うまでもありませんが、
「GXR」や「GXR MOUNT A12」が現在のような姿として製品化・具現化されるにあたっては、
内部・外部からの様々な考え方を取り入れつつも、「撮影領域の拡大」「Candid Photo の支援」を目指して、
RICOH の様々な経営資源を集約・統合・結晶化するための中核・中心として機能されたのではないか、ということです。
ただ、「企業文化」に焦点を当てると、そのような湯浅氏の存在や役割を含めて、
「それが RICOH の企業文化である」と言うこともできるでしょう。
しかしながら、とは言うものの、湯浅氏がいなくなった後、RICOH のカメラ製品作りがどのように変化するのかしないのか、
「GR DIGITAL」や「GXR」の開発が今後どのような方向に進んでいくのかは、
米谷美久氏がいなくなった OLYMPUS や、Steve Jobs 氏がいなくなった Apple がそうであるように、
マーケティングやマネジメントを考える者にとっては、大きな注目点になります。
また、先月(2011年10月)中旬に「GXR」「GXR MOUNT A12」を入手した一人の RICOH カメラユーザーでもある私個人としては、
「(湯浅氏の指揮による)これまでの考え方で、さらに『GXR』の製品開発を進めて欲しかったな」という思いを抱きつつも、
魅力的・画期的な製品の開発により、私に再び写真撮影やカメラ・レンズへの関心を呼び戻してくれたことに感謝したいと思います。
※2011年11月18日追記
※2011年11月19日:リンクを追加する等若干加筆修正
※2011年11月23日:「スライドイン・マウント」の耐久試験の回数について、(*24)
当初参照したページ と RICOH のサイト内のページ で異なる値となっていたため、
「その数値を明示してソースへリンクしていた部分」を削除し、追記(*22)のように修正
※「スライドイン・マウント」の耐久試験の回数については、その後の情報収集を踏まえて、
改めて、追記 *24 で再整理しています。(2011年11月24日)
*21:RICOH のカメラ事業における湯浅氏の存在・役割については、過去に 日経エレクトロニクス が特集記事として取り上げていました。
本誌では、「GR DIGITAL III」発売の前後、「GXR」発売の3〜4カ月前のタイミングでの4号連続の連載で、
Web 上では、以下のリンク先のように、記事の抜粋のみ読むことができます(本誌も取り寄せて読んでみたいと思います)。
2009年7月27日号『ドキュメンタリー リコーのカメラが復活したわけ(1)君が開発全体の責任者になれ』
2009年8月10日号『ドキュメンタリー リコーのカメラが復活したわけ(2)どんな問題でもおれのところに持ってこい』
2009年8月24日号『ドキュメンタリー リコーのカメラが復活したわけ(3)考え抜いてきたが、現実は甘くなかった』
2009年9月07日号『ドキュメンタリー リコーのカメラが復活したわけ(4)信じて精進すれば、きっと結果は出る』
抜粋では、機種としては「GR」と「Caplio RR30」についての話が中心で、「GXR」については触れられていないようです。
この連載記事における湯浅氏は、タイトルからも、RICOH のカメラ事業の「中興の祖」的な位置付けになっているようで、
抜粋記事が意図する主旨から捉えると、RICOH の企業文化があって湯浅氏の存在・役割があったというよりも、
湯浅氏が現在の RICOH のカメラ製品作りの企業文化を復活させた・再構築した、ということかもしれません。
そうであるなら、アナログカメラ時代に「R1」「GR1」「GR21」を生み出した RICOH の開発思想・ミームも、
デジタルカメラ時代には、湯浅氏の登場以前は、かなり弱体化していたということになります。
もしくは、「思い」はあっても、それを実現するための技術的課題を突破できなかった、ということだったのでしょうか。
このあたりは、日経の記者や私のような部外者には中々窺い知ることが難しいところですが、少なくとも、
RICOH のカメラ製品作りの企業文化において湯浅氏の存在・役割はかなり大きいのではないか、ということは言えそうです。
であれば、RICOH としては、譲渡を受けた PENTAX のカメラ事業の統合と共に(ここでも企業文化の融合が課題となりますが)、
湯浅氏が去った後、組織内に醸成・共有化された「撮影領域の拡大」という企業文化を如何に継承・発展・進化させていくのかが、
ユーザー・顧客・市場とシンクロした製品企画・開発という点において、非常に大きな経営課題ということになります。
※2011年11月20日追記
*22:「GXR」開発に際しての具体的アクションについては、以下のページなどで知ることができます。
・RICOH のサイトの「リコー製品のここが知りたい 第39回 ユニット交換式カメラ GXR」
[企画・デザイン編] 1/3・2/3・3/3(2010年01月20日)
[設計・開発編] 1/3・2/3・3/3(2010年02月03日)
・「GXR」の発売に際しての ITmedia のインタービュー記事(2009年12月17日)
「ユニット交換デジカメは成功するか?――リコー「GXR」開発者に聞く 1/3・2/3・3/3」
・デジカメWatch「【インタビュー】リコー『GXR』」
「前編 ― 構想から5年のカメラシステム」(2010年01月27日)
「後編 ― 新規ユニットの可能性はあらゆる方向から検討」(2010年01月28日)
・ASCII.jp×デジタルの連載「買ったからには全部言いたい! リコー「GXR」はどうなの?」の第10回(2010年03月18日)
「これまでに気になった点を「GXR」開発陣に直撃! 1/5・2/5・3/5・4/5・5/5」
追記 *20 では、当初は、「スライドイン・マウント」の耐久試験の回数を明示して、そのソースにリンクしていました。
この数値について、従前、私は、上記「[設計・開発編] 2/3」(RICOH のサイト内のページ)に記載のある値として
おぼろげに記憶していましたが(ただ、その記憶の元となったソースがどこだったのかは思い出せないのですが)、
追記 *20 に際してそのソースを探したところ、それとは異なる数値を記載した上記「ITmedia の記事 2/3」がヒットしたため、
「記憶違いだったのかな」ということで、その記載に基づいて記述していました。
しかし、後日、上記 RICOH のサイト内のページに、私が従前に記憶していた値として記載があることに気が付いたため、
追記 *20 の、具体的数字を明示した該当部分は削除して、この追記のように修正しています。(*24)
※2011年11月23日追記
※2011年11月24日:「GXR」の開発情報について、「デジカメWatch」「ASCII.jp×デジタル」の 記事へのリンクを追加
※追記本文中に「その記憶の元となったソースがどこだったのかは思い出せない」と書きましたが、
追加したこれら2つの記事が、既読感から、「『スライドイン・マウント』の耐久試験の回数」についての
私の記憶の元となった情報源であったものと思われます。
追記 *20 を書いた際には、検索時のキーワード設定が悪く、これらを参照できませんでしたが、
異なるキーワード設定とすることで再発見することができました。
この数値については、「GXR」の開発の根幹に関わる部分であり、
また、本エントリーのロジックに関わる要素でもあるため、
(修正が入ったことでわかりにくくなってしまいましたが)別途、追記 *24 で再整理しています。
*23:追記 *20 の最後の方でも触れましたが、私は、先月(2011年10月)中旬に、「GXR MOUNT A12」を入手しました。
また、ほぼ同時期に「GXR」本体と「VF-2」も購入し、機材的には「GXR MOUNT A12」を使える体制となっています。
「GXR MOUNT A12」については、この時期に入手するためには販売店への予約が必要であったようですが、
あるネットショップで、注文用ページでは「在庫無し」となっていたものの、
在庫確認用ページでは「在庫有り」となるため、電話確認したところ「現在、在庫有り」とのことでしたので、
入荷と在庫引き当ての間隙を突いたタイミングであったのか、予約無しで入手することができました。
※2011年11月23日追記
*24:「『スライドイン・マウント』の耐久試験の回数」については、追記 *22 で列挙した中では、次のページに記載があります。
(1)RICOH「リコー製品のここが知りたい 第39回 ユニット交換式カメラ GXR [設計・開発編] 2/3」
(2)ASCII.jp×デジタル「これまでに気になった点を「GXR」開発陣に直撃! 3/5」
(3)デジカメWatch「【インタビュー】リコー「GXR」後編―新規ユニットの可能性はあらゆる方向から検討」
(4)ITmedia「ユニット交換デジカメは成功するか?――リコー「GXR」開発者に聞く 2/3」
この点に関しては、(2)の記事が最も詳しく、私としては、その情報の信頼性が高いように感じました。
ということで、「スライドイン・マウント」については、(1)(3)も踏まえつつ(2)を中心にしてまとめると、
・最終製品形状に近い状態のモノで、10万回超の着脱試験が行われ、物理的・電気的に、問題がないことを確認した。
・その上で、「安全」「余裕」を考えて、ユーザーに対しては、1万5千回までの着脱を保証している。
ということであるようです。
当初、追記 *20 を書いた際に参照した(4)では、この点について「1万回以上の耐久試験を行い」という記載がありますが、
これは、「10万回超の耐久試験」と「1万5千回の保証」が混同したような表現であるように思われます。
また、ここでは、耐久性という観点から、ただ単純に回数だけに着目しましたが、上記記事にも色々記載があるように、
「スライドイン・マウント」の開発に際しては、
実際の使用感においての快適性や心理面での信頼感の醸成にも配慮が行われているようです。
※2011年11月24日追記
*25:「GXR」の開発については、設計担当の方が開発過程を詳細に語っておられる、次のページが最も詳しいようです。
@IT MONOist「隣のメカ設計事情レポート(4)」
「夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(上) 1/3・2/3・3/3」(2010年01月18日)
@IT MONOist「隣のメカ設計事情レポート(5)」
「夢と苦労を詰め込んだGXRの設計(下) 1/3・2/3・3/3」(2010年02月19日)
(下)の方の記事は、全編が「GXR」の最大の特徴である「スライドイン・マウント」についての情報になっています。
この記事の中で、私が一ユーザーとして、及び、一ソフトウエア・エンジニア(=プログラマー)として最も興味深かったのは、
ユニットの発展可能性を阻害しないようにするために本体ユニットの下方を開放するように設計変更した、という点です。
( (上)の 2/3 に、そのくだりが載っています。)
ユーザーとしては、その配慮が活かされるカメラ・ユニットなどの製品が登場することを(可能性として)楽しみにしたいですし、
実装を考える者としては、その合理性に対して、「確かにそうだよね」という感じで、拍手です。
エンジニアの仕事は、様々な困難な要求を実現可能としたり、先入観を取り去りモノゴトの本質に到達しそれを実装することにより、
大きな喜びや充足感を得ることができますが、この記事は、RICOH のエンジニアの方のそのようなエモーションで満ち溢れています。
また、経営・マーケティングの視点では、次の2点が注目すべき点であるように思われます。
(B)GXR は、「デザイン区」の構想・発案であった
何故このような呼称としているのか、その狙いの本当のところは「RICOH のみぞ知る」ということになりますが、
容易に思い浮かぶのは、
(1)組織を、「部」「課」という「垂直方向」のイメージではなく、「区」という「水平方向」の区切りで捉えたい。
すなわち、組織の官僚主義化や「サイロ」化(=部門最適化・部分最適化)を回避したい。
(2)組織内のサプライチェーンとして、時間軸的に展開するのではなく、同時並行的に展開したい。
すなわち、部門間で仕事をバケツリレー的に受け渡すのではなく、ラグビーのスクラムのように一体的取り組みを行いたい。
という、経営学的な課題に対する解決意図ということです。
(2)については、ICT産業においては、日本の製造業の「強み」を分析した 野中郁次郎氏・竹内弘高氏の研究 を、
米国の研究者や実務家が実践し、それが、いわゆる「アジャイルソフトウェア開発」として知られるところとなっています。
(当ブログの2011年8月3日のエントリー「日本のIT産業における「失われた20年」の実相」はその点に言及しています。)
(B)については、RICOH においては、デザイン部門が、サーバントとして意匠面のデザインを担当するのみならず、
クライアントとしてコンセプト面のデザインも担当している、ということです。
この点も、マーケティングとプランニングとデザイン、組織と戦略を考える上で、非常に興味深い点であるように感じます。
デザイナーの川崎和男氏は、「問題解決なのに「応答」商品の氾濫」 と題する、2011年12月08日付けのブログエントリーにおいて、
デザインを「応答」「回答」「問題解決」の3つの次元で捉えておられますが、それに倣うと、
RICOH のデザイン部門は、応答的デザインのみならず、回答的・問題解決的デザインも担当している、と言えそうです。
(ちなみに、川崎氏ご自身は、デジタルカメラとして、Leica D-LUX4 と M8.2 をお気に入り・お使いのようです(参照)。)
湯浅一弘氏(元 RICOH のカメラ部門の責任者)は、「アサヒカメラ 2011年12月号」の
「ミラーレス機と一眼レフの未来」という書き起こし的記事の中で最近の業界・商品について率直に語っておられますが、(*26)
その問題意識の根底には、川崎氏と共通のものがお有りのようです。
その中で、一眼レフのデザインについて「道具感」「写真を撮るための道具としてのデザイン」という視点を提示しておられますが、
これは、川崎氏の言う「回答」「問題解決」的デザインという考え方に通じるものであるように思われます。
※2011年12月31日追記
*26:追記 *25 でも触れた、アサヒカメラ 2011年12月号の「ミラーレス機と一眼レフの未来」という記事の中で、湯浅一弘氏は、
携帯性と画質を両立させた強力な一眼レフ。
GR DIGITAL や GXR を手がけた氏が一眼レフに可能性を見ているという点は非常に驚きであり、そうであるにも関わらず、
一眼レフを既に手がけている PENTAX の譲渡を受けた RICOH という組織から離れてしまったという点については、
氏の以前の立場であれば PENTAX の開発方針に少なからぬ影響を及ぼすことも不可能ではなかったはずであろうことを鑑みると、
(この点に関しては、アサヒカメラ 2012年1月号 において、(*27)
赤城耕一さんとの対談記事「辛口カメラ対談「2012年のカメラに望むこと」」の中で触れられておられます。)
氏の真意・胸中を推し量ることはできませんが、それはともかくとして、GXR に関して言えば、
氏が、RICOH のカメラ部門の責任者として GXR の開発に積極的に関わったと仮定すると、2つ目の引用発言のように、
RICOH の経営資源を前提にミラーレス機について「過去からのしがらみを一度断ち切り」開発を行ったのが GXR という製品である
ということになるのではないでしょうか。
※2011年12月31日追記
*27:追記 *26 でも触れた、アサヒカメラ 2012年1月号の「辛口カメラ対談「2012年のカメラに望むこと」」という記事の中で、
湯浅一弘氏は、カメラ製品作りについて「志」という言葉を何度も使ってその要諦を解説していらっしゃいます。
現在発売中の雑誌であることから引用は控えますが、私も湯浅氏の考え方に全くの同感です。
私が本エントリーのタイトルとして「心意気」という言葉を使って表現しようとしたものは、私の勝手な思い込みなどではなく、
「RICOH の『志』であったのだ」「GXR MOUNT A12 はそのような文化基盤から生まれてきたのだ」と納得しました。
GXR MOUNT A12 を買い求め使用しているユーザーの方が、もしそれに満足しているということであれば、
RICOH の開発の「志」が、物理的に具象化された製品やそれがもたらす使用経験を介して暗黙的に通じた、
もしくは、その「志」により満足のいくユーザー経験が支えられ・もたらされている、と言えるのではないでしょうか。
そして、この概念は、カメラ製品に限らず、現代のマーケティングにおいて、
「ほんもの」性との関連で核心的ファクターであるという点を強調しておきたいと思います。
ただ、誤解を避けるために敢えて言いますが、それは単なる「精神主義」や「倫理性」ということではなく、
現代のユーザーの高水準の要求に応えるためには、供給側にも、それに相応する、それ以上に高度なものが要求されるということです。
そこでの満足が、モノやサービスの売買という経済性を超えて、ユーザーや顧客と供給側とのより良い継続的な関係性の構築に繋がり、
結果として、そこにユーザーにおける「ブランド性」や、「ブルーオーシャン」が生まれる契機がある、ということだと思われます。
それにより、その企業は、単なる経済的な存在であることを超えて、社会的・文化的な存在となり、
その報酬として、その企業に、経営的な「レント(利潤)」がもたらされることになる、と私は考えています。
そのような枠組みで捉えると、少なくとも一ユーザーとしての私に対しては、RICOH はそれに成功した、ということになります。
ということで、私的には、GXR ユーザーとしてだけでなく、マーケターとしても、ますます、
氏が去った RICOH の開発やその「志」「文化」が今後どうなるのか、大きな期待と少しの心配をもって注目していきたいと思います。
また、氏が今後どのようなご活動をされるのかという点も非常に興味のあるところで、
氏がおっしゃる「携帯性と画質を両立させた強力な一眼レフ」がどんなものなのか、見てみたい気がします。(*28)
その時に、私が特に注目したいのは、その機能面と共に、「過去からのしがらみを一度断ちきったうえで」とおっしゃる氏が、
プロダクト・デザイン面において、従来のその攻撃的・威圧的な形態・形状イメージをどのように解決するのか、という点です。
※2011年12月31日追記(2012年01月03日論点整理・再構成)
*28:私個人は、(残念なことに)デジタル RF 機の使用経験はありませんが、元来(=銀塩時代)はレンジファインダー機を好む者です。
しかし、仮にデジタル RF 機を所有・使用していたとしても、GXR MOUNT A12 は使用したいと思うのではないかと考えます。
というのは、GXR + GXR MOUNT A12 + VF-2 を使用して、私は「EVF には EVF の良さがある」と感じるからです。
私などが言うまでもなく、現状では、「像の質」「像のリアルタイム性」において、一眼レフ型 OVF に優位性があるものと思います。
しかし、(一眼レフ型の)EVF に対して、私は(より一層の高質化(高精細化)やリアルタイム性の実現への期待はありますが)、
マニュアルでのシビアなピント合わせも可能とさせるフォーカスアシストのような機能があることから、好印象を持ちました。
これは、M マウント用レンズを考えた場合には、RICOH 的に言えば、
特に望遠と近接撮影において、ユーザーに「撮影領域の拡大」をもたらすものとなっています。
また、その「像の質」についても、GXR に VF-2 を付けての撮影中、ふと我に返ると、
ファインダー上に展開されている映像世界に入り込んでいる自分に気がつくという感じで、
像のクリアさやシャープさとは別の基準で、撮影者を魅了する、ある種の魅力があるように思えます。
それは、「装着したレンズ(及び、画像処理エンジン)によって解釈された独自の映像世界に耽溺する」ようなユーザー経験です。
そこで私が思い起こしたのは、ROLLEIFLEX のような二眼レフカメラのファインダーを覗いている感覚です。
私は二眼レフカメラも大好きであり(ただ、私は、有名な ROLLEIFLEX よりも、軽くてシンプルな ROLLEICORD を好みますが)、
そのせいもあってか、VF-2 の少々幻想的なその像質感は、それはそれで魅力であると評価しています。
(もちろん、二眼レフカメラではファインダー像が左右逆になっているため取り扱いにはある程度の慣れが必要となりますが、
EVF の場合にはそのようなことはなく、上下左右とも正像であるため、通常の感覚での操作が可能です。
また、二眼レフカメラでは、撮影用レンズとは別に用意されたファインダー用レンズを通った光による像を見るのに対して、
EVF の場合には、撮影用レンズを通った光による像(画像処理エンジンにより処理された)を見るという違いはあります。)
その特徴は、原理的にも経験的にも、被写体そのものに意識が向かいやすい RF 機のような素通しガラスのファインダーに対して、
二眼レフカメラのファインダーや VF-2 のような EVF のファインダーではファインダー上の像に意識が向かいやすいというものです。
具体的には、前者は「対象を評価する」「対象に迫る」「対象を感じる」という、受動的・経験的・心理的な感覚であるのに対して、
後者は「映像を作る」「映像で表現する」という、より能動的・創作的な感覚です。
このような感覚は、原理的には、一眼レフとも共通するものですが、(一眼レフ型)EVF ではその傾向がより強いと言えるでしょう。
(とすると、現状の「一眼レフ型 EVF」に対して、「RF 型 EVF」というのはあり得ないのかな、とふと思いました。)
そのためか、私は GXR + GXR MOUNT A12 + VF-2 を使うようになり、銀塩用の RF 機を使っていた頃と比べると、
良否はともかく、撮影時に、より強く、撮影結果(=表現・作品)を意識するようになりました。
一方、「像のリアルタイム性」については、それが求められる程のシビアな撮影経験が無いため、
(GXR + VF-2 においては今のところ特に不満はありませんが)ユーザー経験としての評価をすることは現在の私にはできません。
ただ、電子製品の常として、その時点の予想を大きく超えて進化するため、将来的には限りなくゼロに近づいていくものと思われます。
とは言え、原理的には、その差をゼロにすることは不可能であろうことから、
極限的領域で、もしくは、哲学的な意味で、一眼レフ型 OVF には確固とした存在理由があるということになります。
また、それらとは別に、私が感じたのは、ファインダーのタイプやその見え具合という点と共に(もしくはそれ以上に)、
単純にファインダー像の大きさというものが、撮影経験時の悦楽性に大きな影響を及ぼす要因となるようだ、ということです。
それは、大画面のスクリーンやディスプレイの視聴経験が映像へのより深い没入感を与えるのと同種の効果とも思えます。
もしくは、ヴァーチャル・リアリティをもたらすヘッド・マウンテッド・ディスプレイを考えれば、当然と言えます。
であれば、この点は、カメラメーカーにおいては自明のこと、「百も承知」ということかもしれませんが、
一ユーザーとしての私の感覚としては、写真撮影経験の悦楽性(User Experience)という点だけに限定すれば、
EVF においては、「像の質」「像のリアルタイム性」とは別に、「像の大きさ」も重要要因となるように思われます。
※2011年12月31日追記(2012年01月03日論点整理・再構成)
*29:写真家の テラウチマサト 氏が理事長を務める一般社団法人 TOKYO INSTITUTE OF PHOTOGRAPHY (T.I.P)の主催により、
2012年9月22日に開催された「カメラの話をしよう vol.7 -番外編- GR・GXR誕生秘話」では、
元リコー パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデント(執行役員プレジデント)の湯浅一弘氏が、そのタイトル通り、
「デジタルカメラGR・GXRの誕生までのすべて」を詳しく語られたようです。
私が把握している限りにおいては、その一部始終が、次の2つのブログ・エントリーに紹介されています。
『「カメラの話をしよう」Vol.7 番外編「GR・GXR誕生秘話」』(まわりぶろぐ さん)
『カメラの話をしよう〜番外編 GR・GXR誕生秘話』(ものごいかっぱのあめふらし さん)
追記で参照させていただいた 日経エレクトロニクス の 特集記事 では、湯浅氏が、開発リーダーや事業部長という立場で
Caplio RR30、GR などの企画・開発に携わった様子が詳細にレポートされていますが(Web 上では抜粋記事のみ)、
氏は、GXR や GXR MOUNT A12 の開発においても、「プレジデント」というマネジメント的職責でありながら、
企画・開発の中身に対して深く関与しておられた、ということのようです。
つまり、魅力ある「モノ作り」という観点から考えると、リコーの GR や GXR の場合には、
的確な市場観を有するトップの積極的なコミットメントが重要成功要因の1つであったということになるものと思われます。
また、有料のイベントであるにも関わらず GR や GXR のユーザーと思われる方々が参加しておられるのは、
個人としての湯浅氏に対する興味・関心と共に、これらの製品に対する大きな愛着の表れと言えるでしょう。
私自身はこのイベントには参加することはできませんでしたが、GXR ユーザーの一人としてもマーケティングを考える者としても、
そこで氏により語られた GXR や GXR MOUNT A12 の開発経緯については大いに興味のあるところです。
それと共に、上記において参照させていただいたブログ・エントリーでも言及されているように、
また、恐らく多くの GXR ユーザーの方々と同様に、自らの愛機で写真を撮りつつも、その今後の展開が気になるところです。
※2012年12月15日追記
*30:(情報的には全く最新ではありませんが、2013年4月に発表された「GR」との関連で、以下追記しておきます。)
2013年4月17日、GR DIGITAL の第5世代製品として「GR」が正式に発表されました。
「GR シリーズの『集大成』(デジカメWatch『「GR」の発表会に森山大道氏が登場』)」とされるこの製品について、
本エントリーとの関連では、次の参照記事に基づき、モノ作りという視点から、特に以下の点に注目したいと思います。
※参照:GR ブログ『GR 徹底紹介:新しい GR 機能性能など』
製品サイズはそれほど大型化させることなく銀塩 GR とほぼ同サイズに収めることができたのは、
小型の高性能・広角レンズを実現できたことがその最大の要因と考えられるが、それにはレンズの設計・開発力とともに、
「GXR MOUNT A12」でも威力を発揮した、「オンチップ・マイクロレンズの最適化技術」によるところが大きい。
バックフォーカスが極端に短い「厳しい条件」のレンズでも周辺画質を確保することが課題の1つであったと考えられ(*15参照)、
その具体的解決策の1つが「オンチップ・マイクロレンズの最適化技術」でした。
そこでは、多種多様なレンズに対応する必要があり、特定のレンズに対応するよりもはるかに高い難度が要求されたはずです。
とすると、リコーのカメラ作りにおける「オンチップ・マイクロレンズの最適化技術」は、その原点はともかく、
その向上に対しては、本エントリーで着目した「GXR MOUNT A12」の開発もかなりの貢献をしていることになりそうです。
そして、それが、上記(上記参照記事)のように、具体的な技術として「GR」の実現に繋がっているということになります。
デジタルカメラ製品においてはセンサーサイズの大型化という流れがある中で、現状、これはかなり重要技術であるように見えますが、
それゆえに、「GXR」+「GXR MOUNT A12」も、もう一つの「great」なカメラであったと言えるように思われます。
※2013年12月14日追記
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