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当コラムについて
コラム「Across The Information Technology」では、中小企業とITというテーマで、その深層・真相を捉えるべく、Web開発と経営戦略の双方を見据えつつ、中小企業にとっての情報技術の本質を探っていきます。
問題意識
真に情報技術を活用するためには、「メディアで取り上げられている」「同業他社もやっている」等の理由ではなく、また代理店等の業者任せではなく、中小企業者の方自らがその本質を把握し、主体的に取り組む必要があります。
情報技術への本質的・戦略的対応
情報技術が経営戦略の根幹に深く関わるようになっている現在においては、その本質を見極めて、それこそ戦略的に対応することが肝要です。このコラムが、その取り組みのきっかけや展開のヒントとなれることを願っております。

2010年10月10日

Column About SME & IT : Across The Information Technology vol.2

Twitterと脳、その構造的類似性について(補足)

Across The Information Technology
コラム「Across The Information Technology」の第2回目(vol.2)となる今回は、前回の 「Twitter と脳、その構造的類似性について」 という論考に関して、その後新しく得た情報を踏まえて、その内容を補足する位置付けのものとなっています。具体的には、前回のエントリーを書いた後で、Twitter というネットワーク全体の特性をマクロ的に考察するために「ネットワーク科学」について情報収集している中で、前回のエントリーの中では言及することができなかった「脳」及び「ニューロン」に関する知見を得ることができましたので、それについて書いています。ということで、タイトルを「Twitterと脳、その構造的類似性について(補足)」としています。

■2010年10月20日追記
コラム「Across The Information Technology」の第3回目(vol.3)「Twitter、スモールワールド・ネットワーク、知識創造」を公開しました。

Twitterと脳、その構造的類似性について(補足)

Section.1
前回記事 では、Web 開発者の立場から、
Twitter と脳というネットワークを構成する要素の情報入出力構造の類似性に着目し(前回記事セクション8、9)、
Twitter というコミュニケーション・システムの優位性を考えた。
しかし、前回記事を書いた時点では、以下の点については、ソースを見つけることができなかった。
(1)脳において、
   入力を受け取る元となるニューロンと出力を行う先となるニューロンが同一となる場合があるのかについて
   (前回記事のセクション6)
(2)脳において、
   ニューロン同士のシナプスを介した連携が、位置的に近接したニューロン同士に限定されるのか否かについて
   (前回記事のセクション7)
そこで、今回、これらについて、
脳を「ネットワーク科学」の立場から研究している方々の知見に基づいて補足したい。


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Section.2
1つ目の課題である
(1)脳において、
   入力を受け取る元となるニューロンと出力を行う先となるニューロンが同一となる場合があるのかについて
   (前回記事のセクション6)
は、 増田直紀氏今野紀雄氏著「『複雑ネットワーク』とは何か」において、次のような記述を見つけることができた。
(脳の中で、信号の流れる向きを矢印で表すと)
一方向の場合もあるし、両方向に枝が存在することもある。
とのことである(第8章「生命を支える - ニューロンとたんぱく質」p.175)。
つまり、
脳においては、
入力を受け取る元となるニューロンと出力を行う先となるニューロンが同一となる場合がある。
ということになる。
ご存知のように、
Twitter においては、
入力元となる人(フォローしている)と出力先となる人(フォローされている)が同一となる場合がある。
したがって、この点については、
前回記事では、ニューロンにおける「逆方向伝搬」という現象を持ち出して「構造的類似性」を考察したが、
そのような現象を持ち出さずとも、「両者は構造的に類似している」と言えることになる。
ただし、それが構成要素間の全ての連携のうちのどの程度の割合を占めるのかということについては、
また別途考える必要がある。
Section.3
2つ目の課題である
(2)脳において、
   ニューロン同士のシナプスを介した連携が、位置的に近接したニューロン同士に限定されるのか否かについて
   (前回記事のセクション7)
は、同じく同書によると、例えば視覚情報の流れを見ると、
脳の中の・・・→X領域→Y領域→Z領域→・・・というように、
特定の領域を一定順序で流れて処理されていくとのことである。
つまり、この点に関しては、
この段階のニューラル・ネットワークは本質的には近くのニューロン同士の結び付きから成ると思われている。
とのことである(第8章「生命を支える〜ニューロンとたんぱく質」p.181)。
一方、同書によると、
長い樹状突起(=入力部)や軸索(=出力部)を持つニューロンも存在する。
ショートカットとなる長い軸索(=出力部)を持つニューロンは、例えば記憶に関係する海馬で確認されている。
そのニューロンは、100ミリメートル以上の軸索を持ち、異なった領野(脳の部位)間をも結んでいる。
とのことである(第8章「生命を支える〜ニューロンとたんぱく質」p.191、p.199)。
Section.4
同様の記述は、マーク・ブキャナン氏著「複雑な世界・単純な法則」の中にも見つけることができる。
具体的には、前者については、
ニューロンの大半は同じ機能部位内の近くにある他のニューロンとつながっている。
後者については、
軸索(=出力部)のなかにはもう少し遠くまで走って、
隣接する脳領域(=別の機能領域)のニューロンとつながっているものもある。
けれども、脳には少数だが遠く離れた部位間を連絡している非常に長く延びた軸索もあり、
なかには脳の反対側にまで走っているものがある。
とのことである。
これらをまとめると、
したがって、脳の内部には局所的な多数のリンクと、長距離を結ぶ少数のリンクがあるわけだ。
ということになる(第4章「脳がうまく働く理由」p.98)。
Section.5
また、ちょうどこの記事を書いている最中に発信された、脳科学者・茂木健一郎氏 の Tweet によると、
可塑(5)
脳の中には、数個のシナプス結合を通してどのニューロンからニューロンにも到達できる
「スモールワールドネットワーク」がある。
局所的な計算においても可塑性が存在し、長距離の結合においても可塑性が存在する。
この組み合わせが「奇跡」をもたらす。
とのことである。
ここで茂木氏が「局所的な計算」と言っている部分は
先程引用したマーク・ブキャナン氏の記述では「局所的な多数のリンク」という部分に、
「長距離の結合」は「長距離を結ぶ少数のリンク」に対応している。
また、茂木氏の Tweet の前半部分
数個のシナプス結合を通してどのニューロンからニューロンにも到達できる「スモールワールドネットワーク」がある。
については、先に引用させていただいた2つの文献においても、
「脳が「スモールワールドネットワーク」であるかもしれない」という、同様の可能性が示唆されている。
Section.6
「スモールワールド・ネットワーク」とは、
「ネットワーク科学」において、現実に存在する複雑なネットワークを研究する中からモデル化された概念で、
それを考案したダンカン・ワッツ氏は、その著書の中で、
その部分では(=ネットワークがある係数的特徴を持った場合)、
局所的なクラスタリングが高く、全体的なパスの長さが短い。
これがわれわれのスモールワールド・ネットワークである。
と述べている(ダンカン・ワッツ氏著「スモールワールド・ネットワーク」p.103)。
つまり、「スモールワールド・ネットワーク」とは、「ネットワーク科学」的には、
・高いクラスター性 〜 局所的なクラスタリングが高い
・短い平均距離 〜 全体的なパスの長さが短い
という2つの特徴を合わせ持つネットワークであると定義される(「『複雑ネットワーク』とは何か」p.73)。
「高いクラスター性」とは、
ネットワークの中の任意の1つの構成要素に着目した時に、
それと連結している他の構成要素同士もまた連結しているような状態
のことであり(「複雑な世界・単純な法則」p.355)、
イメージ的には、近接している複数の構成要素同士が蜜に連携し合っている状態(=近接密集性)である。
「短い平均距離」とは、
ネットワークの中のあらゆる任意の2つの構成要素が、少ない構成要素を介して連結している状態
のことであり(「複雑な世界・単純な法則」p.355)、
これは一般的には「世間は狭い」、社会学的には「6次の隔たり」と言われる状態である。
脳においては、先の茂木氏の Tweet にあるように、
数個のシナプス結合を通してどのニューロンからニューロンにも到達できる
という特質となる。
そして、「高いクラスター性」を前提としつつ(この特性だけでは、ネットワーク全体の平均距離は長くなってしまう)、
ネットワークが全体として「短い平均距離」を実現するためには、
遠くのクラスターを連結するような「長距離を結ぶ少数のリンク」=「ショートカット」が必要になる。
つまり、「スモールワールド・ネットワーク」の特徴をもう少し分かりやすく整理すると、
(1)高いクラスター性(=近接密集性)
(2)遠くのクラスターを連結するような長距離の少数のリンク(=ショートカット)
という特徴を持つことにより、結果として、
(3)短い平均距離(=「世間は狭い」「6次の隔たり」)
を実現しているネットワークのことである
ということになる。
Section.7
そして、「スモールワールド・ネットワーク」は、
もう一人の考案者(共同研究者)で、ワッツ氏の師匠でもあるスティーブン・ストロガッツ氏によると、
「スモールワールド」構造とはどうやら、
大域的な協調現象をより経済的にもたらすものであるらしい。
とのことである(スティーブン・ストロガッツ氏著「SYNC」p.372)。
ここでストロガッツ氏が「大域的な協調現象」と言っているのは、
「ネットワークを構成する多数の構成要素の活動が同期する」すなわち「相転移」「自己組織化」という現象を指している。
また「経済的」にと言っているのは、
ネットワーク内の全て構成要素が他の全ての構成要素と直接的に連結しているような状態(これを「完全グラフ」という)
と比較すると(この時にも、大域的な協調現象が見られ得るが、非常に多くのリンクが必要になる)、
より少ないリンク数でそれを実現することができる、という意味である。
ストロガッツ氏のこの認識は、「スモールワールド・ネットワーク」が、
多数のコオロギの鳴き声が同期する現象や多数の蛍の発光が同期する現象を研究する中から考案されたことによる。
Section.8
ここまで、セクション2〜7において、2つ目の課題について、
(2)脳において、
   ニューロン同士のシナプスを介した連携が、位置的に近接したニューロン同士に限定されるのか否かについて
   (前回記事のセクション7)
ということを調べつつ、脳が全体としては「スモールワールド・ネットワーク」である可能性を見てきた。
そこで当初の目的である Twitter との比較ということに戻ると、 
Twitter においては、
その構成要素(=参加者)は、他のあらゆる構成要素と連携可能である。
のに対して、
脳においては、
その構成要素(=ニューロン)は、基本的には近接している構成要素と密集的に連携するが、
それ以外にも、非常に遠くの構成要素とも連携可能である。
しかし、その連携は、(1000億と言われるニューロンの数と比べると)少数に限られている(と考えられている)。
ということなる。
つまり、Twitter というネットワークには、原理的には「構成要素の位置」という概念が無いため、
「構成要素の位置」が重要なファクターになる脳というネットワークとは、
連携についての自由度や連携状態の様相が異なるということになる。
Section.9
ということで、Twitter と脳の類似性ということについてまとめると次のようになる。
前回記事においては、
■1つの構成要素のレイヤー及び2つの構成要素のレイヤー:
 Twitter と脳は、
 ある一つの構成要素の入出力構造、及び、ある一つの構成要素が他の構成要素と連携する仕方についてに着目すると、
 類似していると言える。
ということであった。
そして、今回においては、
■2つの構成要素のレイヤー:
 Twitter と脳は、ある一つの構成要素が他の構成要素と連携する仕方について着目すると、
 入力元と出力先が同一となる場合があり得るという点において、類似していると言える。
■構成要素全体(ネットワークの内部構造)のレイヤー:
 Twitter と脳は、複数の構成要素間の連携の自由度とそれに基づく実際の連携の様相に着目すると、
 Twitter ではどの構成要素間の連携も可能であるのに対して、
 脳では近接する要素間の連携が基本となり、例外的に離れた要素間の連携が実現される(ようである)ことから、
 この点では、類似しているとは言えない可能性が高い。
 (ただ、このレイヤー(=ネットワークの内部構造)については、両者ともそれ程明確にはなっていない)
ということになる。
そして、実は、
Twitter も、脳と同様に、「スモールワールド・ネットワーク」である
という可能性が高い(この点については、次回のコラム で考察してみたい)。
ということは、
■ネットワーク全体のレイヤー:
 Twitter と脳は、ネットワーク全体においては、
 「クラスター性」「ショートカットの存在」という特徴を持っていることから、
 共に「短い平均距離」という特徴を持つ「スモールワールド・ネットワーク」である可能性が高い。
 したがって、ネットワーク全体では、類似していると言える。
ということになる。
Section.10
今回の考察は、Twitter を考える上で本質とはあまり関係ない情報が多かったかもしれないが、
Twitter と脳との構造的類似性ということについては、ある程度概観することができたと思う。
前回記事では、Twitter の優位性について、「1つの構成要素のレイヤー」「2つの構成要素のレイヤー」において、
脳とも共通的な入出力構造を前提に、
「フォロー」「アンフォロー」、すなわち、構成要素(=参加者)が自らの入力経路をコントロールできる
という Twitter ならでは特徴に着目し、
Twitter というシステムの個々の構成要素(=参加者)が、
「部分最適」的に適切な入力元と連携する行為、すなわち、「フォローする」という行為が、
Twitter というシステム全体におけるコミュニケーションの「質」を向上させることに貢献することになる
との結論を得た。
「構成要素全体(ネットワークの内部構造)のレイヤー」については、
今のところ情報が得られないため、それ以上は考察できない。
また、脳との類似性という点についても、これ以上の追求はもはや有用ではないであろう。
そこで、次回は、脳との類似性というところからは離れて、
「ネットワーク全体のレイヤー」において「ネットワーク科学」的な視点から Twitter の特徴を捉えた上で、
その知識創造における有効性について考察してみたいと思う。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

■2010年10月20日追記
コラム「Across The Information Technology」の第3回目(vol.3)
Twitter、スモールワールド・ネットワーク、知識創造」を公開しました。
このエントリーでも簡単に触れた「Twitter がスモールワールド・ネットワークである」という可能性を考察した上で、
Twitter 的機能を実現するマイクロブログ・システムを
企業内のコミュニケーション・システムとして導入することの戦略的意味を、
「知識創造」の観点から考えます。

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